映画『ゲームの規則』は名作の誉れ高いが、その衣装を担当したココ・シャネ ルの素晴らしさを語ろう

満員電車に揺られて映画館に出かけて行って、満員電車で帰ってきては、感動も半減すると思うし、「え、今なんて言ったの?」「え、今電車に乗ってきたのは●●のカメオ出演じゃないの?」とかDVDを何度も巻き戻して2時間の映画を3時間かけてメモを片手に映画を観る小生としては、自宅の居間に勝る映画館はないのである。このあたり「Byron」執筆陣のサトウムツオ氏のお考えを聞いてみたいものである。

私のネタ元は録画したTV映画である。昔は何でもかんでも録画したものが、もうこの歳になると大体の映画の内容は観なくともわかるようになった。しかしそれでも5本に1本はスカを掴む。昔は律儀に観始めた映画は最後まで観たが、最近は途中でも鑑賞を止めて録画消去するようになった。私の人生は少なくとも第3コーナーは回っているのである。ブルース・ウィリスのダイ・ハードシリーズとかスティーヴン・セガールの沈黙シリーズなんかをぼんやり観ている時間はないのである。

では、どんな映画をTV録画しているかというと、最近ではジャン・ルノワールが監督した「ゲームの規則」(1939年)が代表作品だ。ルノワールはゴダールやトリュフォーなどのヌーヴェルヴァーグ映画の旗手たちが我々の父と崇めていた存在である。そのルノワールの代表作と言えば「大いなる幻影」と「ゲームの規則」ということになっているのだが、その片方をこの歳になるまで観ずに来てしまった。

その「ゲームの規則」がNHKBSで先月放映され録画した次第。こういう味のある映画は若い者には退屈だろうが、人生の第3コーナーを回った者には響くこと夥しい。ルノワール監督が自ら出演して狂言回しを演じ、貴族の恋愛遊戯を群像劇として描いている。これは賛否両論ある映画だろう。制作されたのはナチの軍靴の音が聞こえ始めている1939年。様々な暗喩を評論家はこの映画から探り出している。みんなが言うように時代背景は第二次大戦前夜ではなく、第一次大戦前夜のような気がするのだが、まあ時代設定はあまり問題ではないだろう。

ファッション関係者としては、映画の中のファッションの見事さに唖然とする。侯爵夫人の部屋着からイブニングドレス、狩猟ファッションまでの見事さ、侯爵の愛人のなんとも砕けた現代的ファッション、そして侯爵夫人の女召使の多様なファッションを堪能することになる。1939年にこんなことが可能だったデザイナーということになると、ココ・シャネルしか思いつかないが、ちゃんとクレジットされていた。彼女の絶頂期であろう。常套句で恐縮だが、78年経って古びていないのである。

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こんなシーンがある。自分の夫からマントをプレゼントされた侯爵夫人の女召使。夫が「あ、値札が付いたままだった。失礼」と値札をとりながら、「このマントは完全防水で暖かいんだよ」と言うと、「それでデザインが犠牲になっているわね」と答える。映画の展開とは全く関係のない台詞で、大胆な憶測をするとこのセリフ、現場に居合わせたココ・シャネルが、ルノワール監督におねだりして、言わせた台詞のような気がしてならないのである。ファッション関係者、シャネル・ファンには是非お勧めしたい映画である。

ついでに、私が知っているココ・シャネルが衣装を担当した映画を挙げておく。「恋人たち」(1958年 ルイ・マル監督)、シャネルがデザインしたのは主役のデルフィーヌ・セイリグの衣装のみであるが「去年マリエンバートで」(1961年 アラン・レネ監督)。

 

Photo:Fer Gregory/Shutterstock