元撚糸工場のレストランは、言葉と味で、まさに糸を紡ぐ(YArn)料理なのだ⁉︎(後編)

厨房の中は実験室そのもの。シェフとマダムにスタッフはあと2人/Photo:Muneaki Maeda

レストラン熱中派#38

2015年8月、石川県・小松市にできた「YArn」は、これまでにない不思議なレストランと聞いて、興味深々で訪れてみた。前回はその不思議な料理のほんの一部と、シェフとマダムの経歴をご紹介した。今回はもう少し深く謎を追い、なぜこの店が注目に値するか、そしてお客はどう楽しめばいいか考えてみた。

この店はいったい何料理なのか? テーブルにナイフ&フォークはセットされていない。その代わり食卓につくと“能登ビバかほり箸”(県木の能登ヒバの間伐材と有効利用した石川県地域活性化プロジェクトによるもの)が運ばれてくる。まず、その独特の木の香りから味わって欲しいというメッセージだ。メニューを見ると、この日は18品。料理の名前とは思えないナゾの料理名が並んでいる。「ホッとジン茶エール+ういろう&Jamon」「蕗の蕾の天婦羅」「MONOけし Schiacciatina」(前回、説明した一品)」「おかしなチョリソ」「Takenoko 瓶テージ2016」「Takenoko vintage 2017」などなど…。

そしてメニューの裏には、能登島赤土野菜NOTO高農園の有機野菜、能美の遣水観音霊水など、その日に使われた石川県産素材や、ホセリート社のハモンイベリコベジョータのような最高級のスペイン産生ハムや九谷焼の窯元の名前が記されている。

つまり、この店は石川県の素材を基本に、日本料理の技術と、地元の器を使い、オリーブオイルやトリュフ、生ハムやチーズなど、米田夫妻が修業してきたイタリア料理やスペイン料理のオイシイところ(素材も技術も)を取り入れたイノベーティブな料理ということが想像できてくる。出汁はきちんと目の前で取って出してくれるし(その香りは厨房でしか味わえない出来立ての香り!)、パンも出て来るし(小松の人気店「COPAIN」に特注)、氷見うどんをパスタ風にも出す。洋か和の線引きは難しいし、その線引きを考えること自体、意味はない。とにかく、味わって「ウマイ」を言わせしめる“プラス思考の料理”だ。

それにエスプリを加えて説明しているのが独特のネーミングなのだ。料理を別の面から楽しませる工夫、料理をよりおいしく味わうための工夫、料理名が会話のきっかけになる。たとえば、“おひたし牛”。メニューだけ見た時は、牛肉を出汁醤油的なタレに浸してあるのかと想像する。が、正解は以下の通り。「能登牛のA5のフィレの部分を羅臼昆布で昆布締めにしてローストし、金沢産のリンゴの枝であぶって香りをつける。能登野菜の中島菜を昆布出汁、醤油、みりん、EXバージンオリーブオイルとEXバージン菜種オイルのソースで野菜をあえて、肉といっしょに盛りつけます。肉も野菜も昆布の味がつなぎ役となり、お浸し風のソースと一体化するというイメージです」。肉に“おひたし”のイメージを繋げるという発想は、日本料理として抵抗があるかもしれないが、グローバルに見れば“和”の技法に分類されるだろう。しかし、実際に肉を昆布締めしてローストした後に、さらに炙って香りをつけるという複雑な工程は考えにくい…というのが私のような頭の固い日本人の先入観だ。それを米田シェフは、いっしょに添える野菜で全体をまとめるのだから、ジャンルを超えている。これが今、世界各地で注目される、テロワールに根付いた個人の料理だ。

それにしても、日本語に堪能でない外国人にはそのニュアンスが伝わらないのがもどかしい。日本語が理解できなければ、評価すべき点を半分は見落としてしまう。だからといって英語バージョンに統一すると、日本らしい含みの表現がなくなってしまう。「そこがこれからの課題です。日本語、英語、できるだけ両方でやれれば…」。

食に興味を持っている人なら、メニューを見て料理を想像するのは楽しみのひとつ。ここの料理はまず想像力を働かせてから、一口ずつ味わってその答えをかみしめる。そしてさらにその先にある料理に期待を膨らませる。言葉と味で、まさに糸を紡ぐ(YArn)料理なのだ。

Photo:Muneaki Maeda