【銀座中毒者100人×100点】スマイルズ遠山正道Vol.2~シャンソニエ「蛙たち」と銀座

銀座100点にシャンソニエ「蛙たち」のピエールさんが歌う「あきれたおまえ」を挙げてくれた遠山正道さん。ピエールさんとの出会い、銀座という街への想いを聞いた。

— 銀座は、遠山さんにとって馴染みのある街なのでしょうか?

子供の頃から銀座の蕎麦屋「よし田」で年越しそばを毎年とっていたり、今では仲間と経営に携わっているレストラン「銀座ストック」があったりするので、馴染みもありますし憧れの街でもあります。銀座には、父が毎日のように通っていたバー「クール」がありました。銀座の三大バーの1つと呼ばれる老舗で、常連客が「クール」から夜の銀座をスタートして、その後はほかの店をまわるといったスタイルだった。ですからバーを出る時には「いってらっしゃい」と声をかけられるわけです。私も幼い時から父に連れられて行っていたので、大人になってからクールに行くと「小さい頃は2丁拳銃をぶら下げていたのにね〜」などとからかわれたりしていました。

店主の古河さんが88才で店を閉じた後、その場所がラーメン屋さんになると聞いてそれは寂しいなと思い、仲間を募って頑張って店を借りて、現在の「銀座ストック」というレストランを開きました。それが2005年スタートなので、今年で12年目になります。

「銀座ストック」の目の前にあるのが「蛙たち」なんです。かつて父や年上の従兄も行っていた場所なのでいつか行きたいなと思っていましたが、なかなか機会がなかった。それが、平日の夕方あるはずの予定がなくなったときに、1人で行ってみたんです。店に入ったのは19時くらいで、その時お客さんは誰もいませんでした。「蛙たち」の扉を開けてみると、私が2〜30年かけて勝手に想像していた店よりももっと広くて、想像していたよりもさらに「蛙たち」らしかった。美輪明宏もステージに立った今はなき銀巴里から引き継いだ街灯がステージに佇んでいました。

「蛙たち」は50年続く老舗ですが、現在のママは5年前にオーナーになりました。もともと常連さんだったママは、前オーナーに乞われて引き受けたとのこと。ママの妹さんは宝塚出身の方なのですが、その旦那様がピエールなんです。店のマネージャーであるピエールは、東京藝術大学でオペラを専攻していた超エリート。ところで、ピエールはご想像どおり日本人ですよ。これは、彼が高校教師をやっていた時に生徒につけられたあだ名だということです。

— ピエールさんの歌うシャンソンは何が特別なのでしょうか?

シャンソンを歌うのはたいていが煌びやかなドレスを着た大人の女性です。ところがピエールは、そんなベテラン女性歌手の中で唯一の男性であり、その存在も異色で際立っています。彼はステージの最初に出て来て、浪々と歌いながら登場する歌手を紹介していきます。そして最後も、歌手たちをステージにあげて決まりの曲を歌いながらありがとう!とご挨拶。店のマネージャーとして、露払いと締めをするような存在なのです。
ピエールは背も高く、とても姿勢がよくて身のこなしも極めてエレガント。その姿には異次元感があるんです。現代の人ではないような、そして実際には一回りも若いのに、とても年下には思えないような大人の立ち振る舞いで、艶があるのです。そんな彼が歌う「あきれたおまえ」は字余りのポエムのような語りかける歌い方。ポエムと演劇が混ざったような、まるで映画を見ているような……。裏通りのパリの映像が頭に浮かんできます。

「蛙たち」は日常ではなく、異次元のようなそのズレが魅力なんです。シャンソニエはどこでもある種の俗世間とのズレがありますが、それが銀座という場所にあるからこそ安心感があるんだと思います。銀座という場所だからこそ、思い切りその違和感に身を委ねることができるんです。

— おすすめの「蛙たち」の楽しみ方は?

初めて行った時にボトルを入れて、3回くらい通ったあたりで23時くらいに店が終わるのでピエールを誘って向かいの銀座ストック行って飲むのがいいと思います。常連気分が味わえます。こっちは元老舗バーのクール、あちらは50年の歴史がある店、と親和性もあります。

Text : Eri Koizumi
Photo for Smiles::Naoto Hayasaka