パスタの天才ハインツ・ベックのファゴッテッリ

彼はイタリア・ローマにあるヒルトンホテルのダイニング『ラ・ペルゴラ』のシェフ。18年前とは『ガンベロロッソ』(イタリアの権威あるレストラン評価本)の1999年版発表のガラディナーのことだ。ベックシェフはローマで初めて90点以上をマークして注目されていた。その夜のゲストは、イタリア全土から招待を受けたシェフたちや、ジャーナリストや食通と呼ばれる人たちで1卓10名、全部で55卓と大規模なもの。ベックシェフは前菜担当だったが、パスタ、リゾット、肉、ドルチェと注目のシェフがそれぞれ担当する(このとき、日本から日高良実シェフ、山田宏巳シェフも参加)。調理担当のシェフは前日から入り、準備万端だったがベックシェフはみかけなかった。イベント当日、開宴まで、あと4時間ほどという時、厨房に行ってみると。「ベック、ベックはどこ!」。イベントの担当者が大声で厨房を走りまわっていた。「どこに隠れているの?」。どうやら最上階の自分のキッチンに閉じこもったらしい。30分後、彼が降りてきた。とたんに厨房の中にピリピリと緊張が走る。それもそのはず。前菜担当のベックシェフ、ようやく何を作るのかを発表したのだが、それが「フォワグラの前菜を10種類作る」と言い出した。つまり10名で囲むテーブルの上には、すべて違う料理を同時に出すということ。しかしベックシェフは軍隊の指揮官のように、見事に人を配して、前菜10品を55回、見事に出し切った。何より、10種類のフォワグラ料理はテリーヌやムーズ、ポワレやソテーなどすべてスタイルを変えて、それぞれに魅力的な料理だったことに会場が沸いた。その後、彼は一気にブレイク。海外のメディアからも注目され、様々な賞を獲得し2006年版ミシュランで3ツ星にも輝いた。そして、ロンドン、ドバイにも進出し、2014年11月には東京店がオープンしたのだ。

その彼の店が3度目の春を迎えた。年に4回、メニューチェックに来日するシェフの料理は、この日も繊細なコースで展開された。

スペシャリテはファゴッテッリ。手打ちのパスタの淵をギザギザにカットし、中にはカルボナーラ風味のソースが入っている。パスタを口に含むと、小籠包のように中から熱いソースが弾ける瞬間が何とも言えない。パスタの革命家と言われるのも納得。初夏のコースはいつにもましてヘルシー感が強調されているように思えた。

ちなみに1Fレストランのテラスでは5月19日から6月16日まで、フランチャコルタ ガーデンが特別オープン。フランチャコルタとは、シャンパーニュと同じように瓶内二次発酵で完成するイタリアのスパークリングワイン。幾分ガス圧が弱いので飲みやすくて味も個性豊か。4週間にわたって、毎週各4種のフランチャコルタとスナックを用意。皇居の前の広々とした空間、夕景の美しさ、心地よい風。17時から19時と時間は短いけれど、都会のビルの合い間でさわやかな贅沢を! 一杯1000円~(税別)、スナック1000円(税別)。

Photo:Muneaki Maeda
画像提供:ハインツ・ベック