パリ21区!? 海辺のリゾート、ドーヴィルのエルメスとシャネル

そして今回の大統領選挙の結果、新大統領もこれまでの共和党(中道右派)か社会党 PS(中道左派)が交互に大統領に就任していたのとは違い、どちらの党にも属さない中道独立系の若き39歳のエマニュエル・マクロン氏に決まった。変化するフランスを感じているこの頃である。

一方、伝統を大切にして変化しないフランスも存在する。その一つに変わらぬ街並みの美しさがあるが、これから紹介するドーヴィルもそうだ。ドーヴィルはパリから約200km、パリにいちばん近い海辺の街として、昔も今もパリっ子に人気絶大で、別名「パリ21区」なんていう言い方もあるほどである。

復活祭が終わり、陽気がよくなって気分が外へ外へと向かうとき、クルマや列車で2時間ほどのドーヴィルは気軽に行けるリゾート地というわけだ。あまりにも多くのパリっ子が押しかけるところから、いつの頃からか「パリ21区」(パリは20区まである)と呼ばれるようになったのである。

街自体は散歩にちょうどいいくらいでさほど広くはなく、ぶらぶらとブティックを見て歩くのも悪くない。昔のリゾート地の面影を残し、ノルマンディ地方の建築様式で統一された建物のブティックは、パリとは全く雰囲気を異にし、現地に溶け込んでかつ風格のある趣でドーヴィルならではの味わいがある。

ルイ・ヴィトンのブティックも愛らしいノルマンディ様式/Photo:Ayako Goto

ずいぶん前のことになるが筆者が最初に訪れたとき、まるでメルヘンの世界にいるような「エルメス」の佇まいにすっかり魅了された。その後高級リゾート地にふさわしくブランドのブティックが増え、最近ではイタリアンブランドも多い。幾度となく訪れているドーヴィルだが、「エルメス」のメゾンはいつも変わらず、老舗の安心感を呈している。

ノルマンディの建築様式の「エルメス」のブティック/Photo:Ayako Goto

そしてドーヴィルといえば、やはりクロード・ルルーシュの映画『男と女』であろう。子供たちとアンヌ(アヌーク・エメ)を探すジャン・ルイ(ジャン・ルイ・トランティニヤン)がクラクションを鳴らし、ドーヴィルの砂浜で駆け寄ってハグするシーン、フロントガラスを叩きつける強い雨とジャバダバダ、ジャバダバダという音楽は、もう完璧に映画の中に溶け込んでいる。

二人でレストランにいる場面はオテル・ノルマンディ・バリエールが使われている。このホテルはドーヴィルの顔とも言える素敵なホテルで、5〜6月には広々とした前庭にバラが見事に咲く風景も本当に美しく、旅先でホッとさせてくれる。

『男と女』の映画の中ではアヌーク・エメがさりげなく「シャネル」のバッグを持っているのも、それが計算された自然さなのかと思うと、フランスのエスプリの深さを感じてしまう。そう、ここドーヴィルにシャネルの2号店のブティックが、第一次世界大戦の始まろうとする気配が色濃くなってきた1913年に開店したのである。

時代を読む卓越した感性のココ・シャネルが、パリを逃れてドーヴィルにやってきた富裕層を相手に開いたお店では、歳の余り離れていない美しい叔母に新作の服を着せ、街を歩かせたという。つまり自然なかたちをとったファッションショーである。何という上手いやり方だろう!

そんなことを考えながら「プランシュ」と呼ばれる板張りの遊歩道を歩くのも気持ちがいい。特にまだ人出の多くない時期がいい。カラフルなパラソル、遠浅な海浜、その向こうに広がる海。こんな風景は変わらぬドーヴィルとしていつまでも続いて欲しいと思う。

Photo:Ayako Goto