ヒピハパの加賀清一は、下町の生んだ20 世紀最大のファッションデザイナー!?

モード逍遥#42

「デザイナーには足し算をする人と引き算を得意な人がいる」と教えてくれたのは、腕を組むとスマイルマークが現れる『ヒピハパ(Jipijapa)』の新作シャツを着た、ファッションデザイナーの加賀清一さんだ。加賀さんは、これまでに1着で10通りに着られる服とか、1枚の布を折り紙のように畳んでテーラードジャケットを作るなど、ちょっと常人では考えつかないアイデアで洋服を作り続けてきた天才的な人。

『ヒピハパ(Jipijapa)』デザイナー加賀清一さん。腕を組むとスマイルが現れるシャツなど、アイデア満載な服をデザインしている/Photo:Shuhei Toyama

そんな作風だけに、一見足し算のデザイナーと思われるけれど、意外なことに引き算が得意なデザイナーなのだという。

そこでデザインにおける、足し算と引き算とは何かについて考えてみることにした。

まずは縄文土器と弥生土器を思い浮かべていただきたい。岡本太郎さんが主張しておられるように、縄文土器はプリミティブで力強い表現が魅力。いっぽう弥生土器はモダンでシンプル。

誰が考えても、縄文土器の外観は足し算のデザイン、弥生土器は引き算の外観ということが理解できるであろう。

しかしデザインを考える上では、単に外観や装飾を見るだけでなく、それがどのように製造されているかも重要な要素である。

縄文土器は、赤土に砂を混ぜた土をひも状にして積み上げて造形するため、どうしても分厚い器が出来てしまう。それを天日乾燥させた後、たき火にくべて焼くと割れることも多かったらしい。そこで縄文人は、土器の表面に縄目の柄を入れたり、分厚い持ち手の部分などに手彫りの装飾を加え、器の厚さを削って表面積を増すことにより火の通りを均一にする工夫をしたのではないだろうか。

つまり、縄文土器の足し算デザインは、野焼きで割れることを防ぐための機能も秘めていたように思うのである。

いっぽう渡来人の技術を伝承した弥生土器は、土の質も吟味され、手まわしのロクロの原型のような道具もあったらしい。そのため弥生土器は、縄文土器よりも薄く焼きしめたものが出来たという。

少々我田引水的な考えであるが、弥生土器は火入れしても土器が割れにくい製造システムがあったからこそ、必然的に引き算のデザインになったのではなかろうか。

さてそんな考察をベースにして、2017AWで加賀さんがデザインした『オクトパスパーカ』を分析してみよう。

加賀さんは「ポケットに重いものを入れて持ち運ぶときに、ポケットの中身が身体にあたって不快になることが、とくに自転車などに乗るときにあった」ことから、このパーカを考案したという。

さまざまなアイデアを何枚もスケッチし、それを破り捨てながら服の形にしていく加賀さんお得意の引き算デザインによって生み出されたパーカは、ワイン1本、バゲット1本、ミネラルウォーターのボトル1本がポケットに収納でき、自転車に乗っても不快にならない工夫がされていた。

なんとこのポケットには、円筒形の袋が服の外側に飛び出るようにデザインされているのだ。その形状が蛸の足のようだから、オクトパスパーカ。また通常時は、このポケットを服の内側に入れれば、普通のキルティング・パーカとして着ることも可能である。

2017AWアイテムのオクトパスパーカ。収納力・機能性抜群だ/Photo:Shuhei Toyama

「最近の服はデザインを盛ることしか考えていないものが多い」と、加賀さんは歎く。

たしかにその通りで、流行の自転車通勤用ジャケットなどは、ストレッチ素材、腕を曲げやすい設計、前かがみしても後ろ裾がまくりあがらないデザイン、リフレクターテープ付きといった、どれも似たような機能と流行のディテールを盛るばかりで画一的だ。

少しは元祖足し算デザインの傑作といえる、火炎土器の独創性を見習ってほしいものだと思う。

最後に、加賀さんのビジネスのために申し添えておくと、ヒピハパには、変な服だけでなく、ユーモアに富んだ普通の服もたくさんラインアップされている。写真右のヘリンボーン・コートは、張りのある英国羊毛をダブルフェースに織ったもの。着ると素晴らしいAラインが現れるのだが、よく見ると衿部分がよだれ掛けのように着脱できるのがヒピハパらしくてユーモラスだ。

一見シンプルなコートだが、日本人の体形を研究されたシルエット、外せる衿など、細部の追求がすごい/Photo:Shuhei Toyama

「コートの着丈は下町の職人が着た半纏と同じ2尺6寸5分。日本人なら誰でも似合うものです」という加賀さんは、やはり“下町の生んだ(アトリエは荒川区にある)20世紀最大のファッションデザイナー”という形容がぴったりな人なのである。

Photo:Shuhei Toyama