黒い花と黒のモード

実際「黒い花」が私たちの身近な存在になったのは、ここ数年来のことである。今、お花屋さんに行けば黒いガーベラが切り花として売っているし、駅前の広場の花壇には黒いパンジーがそれだけでまとまって植えられていて見事である。これは筆者がここ数日間で見かけた光景である。

花業界では、もうずいぶん前からから黒い花が注目されていて、いろいろな品種に黒が登場している。花のトレンドはやはりパリ、そしてオランダがリードしている。交配や品種改良をしたものがオランダの市場に出回り、パリのお花屋さんが目をつけ買い付けた花がトレンドとなっていく。

パリのパレ・ロワイヤル庭園で、赤いダリアの隣に咲く黒いショコラ色のダリア/Photo:Ayako Goto

黒いチューリップのブーケを30年前にパリでプレゼントされたことがある。チューリップだけでまとめてあって、包装紙も黒を用いた花束だった。そのとき初めて黒いチューリップというものを見た。花もパッケージもなんて素敵、なんてユニークなんだろうと深く印象に残った。それから十数年後、今度は黒いカラーを一輪、野草のような植物と絡ませたブーケを贈られた。これもやはり黒い紙に包まれていて、送り主の粋なセンスに脱帽した。花一輪が、この上なく素敵なものになるんだという素敵な例と言えよう。

赤茶を帯びたブラック・カラー。カラーと野草の小粋なブーケだ/Photo:Ayako Goto

30年前の黒いチューリップは、本当に画期的だった。その後パリで頻繁に見かけたかというとそうでもなく、徐々にゆっくりと浸透していった。

ワインレッドのような黒いチューリップ/Photo:Ayako Goto

黒い花といっても実際には黒い色素は存在しないので、黒紫、古代紫、ショコラ色、ワインレッド、青紫などで、花弁に黒っぽく見えるアントシアニンという色素が多く含まれていると、光がほとんどを吸収してしまうので人間の目に黒く映るのだそう。チューリップやカラーのほか、パンジー、クリスマスローズ、ダリア、バラなどの品種に黒が多く見られる。

黒といっても濃い紫系のアレンジメント。ラナンキュラス、スウィトピー、アネモネ、クレマチスなど/Photo:Ayako Goto

ファッションで黒といえば、現代ではリトル・ブラック・ドレスがある。喪服としてではなく女性を美しく引き立てる服として今では女性の必須アイテムになっている。1950年代には多くのクチュリエ(オートクチュールのデザイナー)が手がけ、シンプルでエレガント、そして凛とした女性らしさを引き出す黒いドレスが作られた。

そんな服が、今開催中の「ヨーロピアン・モード 特集:黒のドレス」展で見ることができる(文化学園服飾博物館にて5月16日まで)。中でもひときわ品のあるドレスは女らしい丸みを帯びたほっそりとしたシルエットのウールで作られたもので、それは後ろにポイントがあってスカートの右後ろに細かなプリーツがはめ込まれたデザインになっている。1954年、ピエール・バルマン作である。テーマが常に「ジョリ・マダム」(美しいマダム)であるというバルマンの作風がこの作品によく表現されている。他にクリスチャン・ディオールの張りのあるシルクファイユのリトル・ブラック・ドレス(1957年作)も時代を超えた輝きを放っている。

ピエール・バルマンの1954年の黒のドレス。そこはかとなく女性らしさが漂う。文化学園服飾博物館蔵/画像提供:文化学園服飾博物館
1957年、クリスチャン・ディオールのリトル・ブラック・ドレス。文化学園服飾博物館蔵/画像提供:文化学園服飾博物館

またパリでは、「バレンシアガ、黒の作品展」(Balenciaga, l’œuvre au noir)がモンパルナスのブールデル美術館で始まっている(会期は7月16日まで)。タイトルにもあるようにクリストバル・バレンシアガの「黒」に焦点を当てた展覧会である。

今春は「黒のモード」の展覧会が注目される。

Photo:Ayako Goto、画像提供:文化学園服飾博物館