春画も裸足で逃げだすほどの、メイプルソープの美学とその凄み

メイプルソープは生前に「自分の名声を見届けるまでは死ねない」という言葉を遺したが、彼の〈美学〉が遥か極東に住む若い女の部屋をも支配していたことを思えば、すでに彼の名声は世界中に広まっていたのだった。

(その後2件の「メイプルソープ裁判」によって、日本での彼の名声はスキャンダラスな物議と共にさらに広まることとなる)

もちろんメイプルソープが20世紀の写真芸術の概念を変えるほどの影響力をもつアーティストであることは、美術展や写真集を通して、薄々わかっていた。

だけど、それを自分が若年期を過ごしてきた1970〜80年代の時代性や当時のアートシーンと結びつけて理解できたのは、後の評伝やドキュメンタリーのおかげだ。

メイプルソープがニューヨークのシーンにデビューした当時、美術界で写真は未だ正当なアートのジャンルとして見なされていなかった。

たとえばアンディ・ウォーホルが、セレブリティの肖像写真を加工したぺらぺらの質感の複製をポップ・アートとして提示したのもそうした時代背景あってのことだ。

そこへメイプルソープが、ゲイ・ムーヴメントやパンク・ムーヴメントの時代の寵児として出現し、古典と前衛のエッセンスをもちあわせ、フェティッシュとポルノの薫りを残した挑発的な芸術写真によって論争を巻き起こす。

シャネル ネクサスホールで開かれている展覧会は、メイプルソープの死後30年近く経ったいま、その凄みをあらためてまざまざと見せつけた。

Watermelon with Knife,1985 Gelatin Silver Print © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.
Orcihd,1988 Gelatin Silver Print © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.
Ken Moody and Robert Sherman,1984 Gelatin Silver Print © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

アートコレクターとしても知られる建築家ピーター・マリーノが自身でプライベートコレクションの企画構成を手がける本展には、静物、花、彫像、ポートレート、ヌードなど代表作約90点が出展されている。

第1・第2の展示室は白いフロアと白い壁の空間に、黒いフレームに縁取られた作品が展示されている。ここでは彫像や人体、花や果物などを、オブジェクトとして正面から精細にとらえた、古典的な形式の肖像や静物をじっくりと見せる。

All Mapplethorpe Works © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.
All Mapplethorpe Works © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

第3の展示室は黒一色の空間で、より挑発的な作品が集められている。光を吸いこむ黒革の質感をもつ壁面では、黒人と白人の男性のヌードと、蘭やチューリップの花の作品が、まるでこれから始まろうとする儀式を待ち受けるかのように向き合っていた。

All Mapplethorpe Works © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

いずれの作品も、その研ぎ澄まされた構図と繻子のようなプリントの仕上がりが、脳の知的な部分と感性の部分を鋭利に刺激してくる。

さらに「黒」の部屋では、あからさまに写し取られた生きものたちがその悪魔的なまでに完全な肉体を突きつけ、抗いようのない性と生の真実が彫りおこされる。

個人収集家の審美眼と挑戦的なコンテクストで作家の軌跡をたどるこの展覧会は、久しぶりにメイプルソープの功績と写真芸術の深淵を伝えてくれた。

ピーター・マリーノ氏/All Mapplethorpe Works © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

そして今もなお続いている、表現の解釈と自由をめぐる議論に関して、マリーノの友人であるシャネル代表リシャール・コラス氏はこんなスピーチを表した。

「明治維新と開国によって日本の優れた文化の多くが、西洋に良い顔を見せようとして、隠されてしまった。昨年開催された春画展に詰めかけた人々の多くは女性だったと聞きます。芸術とポルノは違うものなのです。この展覧会はその微妙なラインに対して明快な姿勢を示します。そして春画展にぜったい負けない〈サイズ〉の効果をお見せします」。

アーティストとコレクターへの敬意と共に、芸術のもたらす「快・不快」や「ユーモア」の普遍性を問い直す展覧会である。

※この展覧会は4月15日から開催される「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017」に巡回する。

Photo:All Mapplethorpe Works © Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

■開催概要

MEMENTO MORI ロバート メイプルソープ写真展
ピーター マリーノ コレクション
〜2017年4月9日(日)
シャネル・ネクサス・ホール
東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング 4F
12:00〜20:00
無休
http://chanelnexushall.jp/

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2017
2017年4月15日 – 5月14日
展示会場:誉田屋源兵衛 竹院の間
京都市中京区室町通三条下ル西側誉田屋奥
10:00-18:00
CLOSED:水曜(5/3 Open)
http://www.kyotographie.jp/portfolio/robert-mapplethorpe