トゥモローランドのMIJスーツが ベンツのEクラスであるという理由とは!?

MIJモデルは日本の高級既製スーツの最高峰に位置する、といっても過言でなく、海外の一流スーツと比べてもまったく遜色を感じさせない。事実ゼニアやベルベストから乗り換えるエグゼクティブも少なくないらしい。

筆者もこのスーツの46サイズが、ほぼ完璧に身体にフィットするので、ついリピートしてしまおうという気になってくる。つまりそれほど出来は良いのである。

クラシコイタリアのスーツが流行の兆しを見せ始めた1990年代の初頭に、筆者はキートン、アットリーニといったナポリの高級既製服を着まくっていた。それはたぶんに1着35から40万円もするスーツ(現在は70万円超らしい)は、「どんなものなのだろう?」という好奇心が原動力になっていた気がする。

しかしそうしたスーツをあらかた手に入れ。身体がその着心地の基準を覚えてしまうと。単に値段が高額という部分の熱狂が次第に冷めてくるのを感じた。

言い換えると、こんなに高額なスーツを日常に着て道端(ストリート)をうろちょろしている自分が、まわりから浮いていないだろうか、ということに気づくわけである。

それを筆者の身近にいるクルマ好きの知り合いに譬えるとこのようになろう。

彼は趣味のクラシックカー・ラリーに出場するためにヴィンテージなスポーツカーを数台所有している。週末に近郊の別荘やアウトドアスポーツに出かけるときはポルシェのカイエンに乗って遠出する。そして普段のビジネスは、あえて車種を書かないが、超高額セダンを使用していた。そんな男が最近、ビジネス用セダンをベンツのEクラスに代えたのである。

「乗り心地や機能性などは以前乗っていたものの基準を満たしているし、むしろリーズナブルなEクラスを乗り回しているほうがまわりと繋がりやすいので仕事にも有益なんだ」

筆者が海外の高額ブランドスーツよりMIJモデルを推すのは、まさにそれと同じ理由だ。高級スーツとして機能を完璧に備え、しかも周りから浮かない納得価格設定。考えてみれば、MIJモデルはベンツのEクラスなのである。

よく言われることだが「日本の高級既製スーツは真面目に作られているけれど、味がない」らしい。ならば味とは何か?それは、上着で言うなら、主に袖の優雅なカーブと、胸まわりの適度なドレープなどに現れるといって良いだろう。(そのほかにもラペルの折り返しのやわらかなロールや背の肩甲骨を包み込む曲線など、いろいろ挙げられるけれど、専門的すぎて、読む人は退屈だろうから省略する)。 たとえばイタリアのスーツは、10万円を切るブランドでも、縫製はたいしたことないが、最低限この2種類の曲線には洋服らしい味つけがうまく出ているものなのである。

ならばMIJモデルはどうであろうか。

2016AWのトゥモローランドMIJのジャケット。袖が前振りの美しい曲線を描く/Photo:Shuhei Toyama

袖の優美なカーブは、ちょっとやり過ぎと思えるほど思い切ったパターンが引かれ、それを縫製時の丁寧な工夫と中間プレスで見事に形にしている。

また胸のドレープも、モデリストの関根久光さんが書いてくれた図面のように、1枚パネルの前身頃を3分割するマニュプレーション(型紙操作)によって、ほど好い胸のボリューム感とウエストのシェープ感をだしている。

マニュプレーションの方法。前身頃チェストに3方向から切り込みを入れ、ドレープを出す/Photo:Shuhei Toyama
マニュプレーションにより立体的・グラマラスなフォルムを現出する/Photo:Shuhei Toyama

とくに胸のふくらみから腰ポケットにかけてのシェープは「まるでキートンみたい」と、感嘆するほどきれいなラインが出ている。しかも嬉しいことに、筆者の、そして多くの日本人の偏平気味の体型にマッチしているわけなのである。

MIJモデルの春夏生地はダークカラーの無地で、ゼニアの14ミクロン(クワットロディッチ ミルミル クワットロディッチ)と15ミクロン(クインディッチ ミルミル クインディッチ)などから選択できるが、筆者が推すのは、15ミクロンのダークブルー無地だ。

なぜなら14ミクロンは糸が細すぎて、逆に生地を厚めにしないと強度が出にくいという噂を聞いたことがあったからである。15ミクロンでも、スーパー表示に換算するとスーパー170S相当。充分薄くデリケートだから、間違ってもこれで大きなダンボール箱などをかつがないように注意して戴きたい。

2017SSの15ミクロン生地のダークブルースーツ/Photo:Shuhei Toyama

ダークブルー無地のシングルスーツは、「女性服に譬えるとブラックミニドレスと同じ効用がある」、とジェレミー・ハケットさんが著書の中で書いていたけれど、まさにその通り。フォーマルオケージョンからビジネスまで用途は広く、エグゼほど重宝するはずだ。

世間では、シングル胸2個ボタン・センターベントのスーツに人気があるらしいが、MIJモデルはナポリの伝統をリスぺクトしてシングル胸3個ボタン段返り衿・ノーベント。

さすが企画をした大橋正治さんは、判っていらっしゃる!