ツイードは天然の迷彩服である!?

モード逍遥#34

春は間近いが、業界は来秋冬モノの展示会の真っ最中である。筆者も先日、英国の伝統柄のカシミアマフラーやウールの大判ストールなどを約250年前から作り続けている『ジョシュア・エリス』の展示会に顔を出した。

なかでも気になったのはシェファードチェックのマフラー。これは長年愛用しているアクアスキュータムのトレンチコートに合いそうだ。また伝統的なタータンチェックの柄を拡大して、色をブルーとカーキに置き換えた大判のストールも素敵だった。こちらは重厚なブラウンのボイルドウールで仕立てた、ナポリのダブルブレスト・オーヴァーコートに合わせてみたいと思った。

『ジョシュア・エリス』の色を替えたタータン・チェックストール/Photo:Shuhei Toyama

この展示会でのもうひとつの楽しみは、ブランドのセールスディレクターであり、また英国の服地通として知られるヒロ・ヤマグチ氏の蘊蓄を拝聴することにある。

今回も「タータンチェックは貴族の家系をあらわす柄として始まったもの。いっぽうツイードというのは、もっと大きな、野山や川を有する土地全体を象徴するものといえるでしょう」と、約1時間を超える講義はスタートした。

ヒロさんによると、ツイードというものは土地を仕切る大地主たちが、それぞれに織らせて、主人はもちろんのこと広大な土地や館に暮らす人々に着用させていたものらしい。羊の毛を紡ぎ、色を染めて、生地を織る。その際に、昔は天然染料、つまりその土地に生育している草木や苔、昆虫などで染めたのだという。

とうぜん、野山の多い土地と渓谷が連なる土地では、織り上がるツイードの色は異なる。土地固有のツイードカラーが、それぞれの土地に存在していたわけだ。

またそれらのツイードの色は、その土地で育った有機物の染料から生まれたものだから、いわば自然と同化しやすい色となる。つまり、野山、あるいは渓谷などで目立たない、天然の迷彩色でもあったわけだ。

しかもこうしたツイードジャケットは、羊毛の中に適度な脂分を含んでいるから、保温性と撥水性を有し、ハンティング、釣り、乗馬などのカントリースポーツ用に重宝したのである。

「ツイードジャケットが誕生した歴史的な背景を知ってテキスタイルをデザインする人と、それを考えもしない人では、服の完成度が異なるはずだ」と、ヒロさんは力説する。

たとえば『MR CLASSIC YESTERDAY & TOMORROW』という日英対訳版の著作が英国に先駆けて日本で刊行されたジェレミー・ハケットさんは、ライトブラウン系のミックスツイードの地にヴィヴィッドなオレンジのオーバーペーンを入れたツイードジャケットなどを好んでデザインしている。

「一見ツイードの伝統を打ち壊しているように思えるのですけどね。じつは鹿などの動物には、オレンジ色が派手な色とは識別できない。そのため、動物からは目立たないけれど、人間の眼には目立つので誤射される恐れが回避できる。理に適ったテキスタイルなのです」と、ヒロさん。

『MR CLASSIC YESTERDAY & TOMORROW』(ジェレミー・ハケット著、長谷川喜美訳/万来社刊)とオレンジのオーバーペーンが配されたツイード地の手帳/Photo:Shuhei Toyama

たしかに、最近のセリーヌの凝ったテキスタイル。あるいはそれと方向性が異なるけれど、フィルメランジェやオーラリーのじっくりと腰を据えて糸の開発から始める生地作りの姿勢。これからのファッションは、テキスタイルに強いブランドが抜け出す予感がするのである。

ハケットのツイードで思い出したのは、2010年にジェレミー・ハケットさんが来日した折りにオーダーメイドしたツイードスーツのことである。このときは、ハケットさんが「初来日したときに見た、東京の抜けるような青空をイメージしてデザインした」という新作の東京ツイードと名付けられたオリジナル生地を直感で選び、シングルブレスト、1個ボタン、ピークドラペルというツイストした注文をして、英国のクリュー市にあるチェシャービスポークの工場で縫い上げてもらった。

ほんらいカントリーウエアであるツイードを、ワンボタン&ピークドラペルというドレス度の高いディテールにすること自体、少しイカレタ注文なのだが、それを面白そうに引き受けてくれたハケットさんの真意は、筆者が東京ツイードを選択したことにあったのではないかと、ヒロ・ヤマグチさんの話を聞いていて思いあたった。

グレーの地に、ブルーの濃淡で2種類のウインドーペーンを配した東京ツイードで仕立てた服は、東京の青い空とクールなコンクリートのグレーをイメージした、いわば東京という都市のなかで着るカモフラージュ・スーツ。

つまり都会で着るツイードなら、ドレス度の高いディテールを加味するというブレーキング ザ ルールも、あえて許されるというわけなのである。

東京ツイードで仕立てた『ハケット ロンドン』のスーツ/Photo:Shuhei Toyama