プッチーニ『誰も寝てはならぬ』で飛び立つ尊厳死に号泣!?

『海を飛ぶ夢』Blu-ray(売元・販売元:ポニーキャニオン、価格:税抜3,800円)
(C)2004 Sogecine, S.A., Himenoptero, S.L., UGC Images, Eyescreen S.R.L. All Rights Reserved.

オトコ映画論#50

アレハンドロ・アメナバール監督の『海に飛ぶ夢』(原題Mar adendro、英語題Sea Inside) は、2004年のスペイン・フランス・イタリアの合作の伝記映画。表題はスペイン語で「内なる海」の意味。25歳のときに頸椎を損傷し、以来30年近くものあいだ全身の不随と闘った実在の人物、ラモン・サンペドロの手記『地獄からの手紙』(原題Cartas desde el Infierno、1996) をもとに、「尊厳死」を求めて闘う主人公を描くドラマ。すごいことにその手記は、ラモンの目のまばたきで書いたものなのだ。同じ年、クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』もあり、同じく「尊厳死」のテーマが重くもたげる。

ともかくラモン役のハビエル・バルデムが35歳ぐらいで、主人公の晩年の50代の老けメイクに挑み、まさに鬼気迫る演技で圧巻だった。

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実はこの映画のハビエル・バルデムには6回ぐらいインタビューしていて、本作ではスペインの彼に電話でインタビューした。僕が見えないことをいいことに、女の子を連れ込んでいたらしい。通訳の方がしゃべっているあいだ、唇を重ねる音が聞こえてくる。その相手がペネロペ・クルス(のちに2010年に結婚)だったかどうかはわかっていない。

僕は1990年代末からヴェネチア国際映画祭に10年連続で通っていた。映画祭に海水パンツを持って行ったのは、僕ぐらいなもんだろう。メイン会場のエクセルシオールホテルのプライベートビーチのキャビンを数日借りたわけだ。暑い夏の盛りに黒づくめの服を着て来たハビエル・バルデムがビーチに涼みに来たので、冷えたワインをご馳走した。そしていっぱい話をした。

彼はマイクル・マン監督、トム・クルーズ主演の『コラテラル』(2004)で、ハリウッド映画でヴィランを演じることに大変悩んでいた。スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・クルーズ主演の『マイノリティ・リポート』(2002)のヴィランを時期尚早と断っていたからだ。その後、彼には『ノーカントリー』(2007)、『007 スカイフォール』(2012)と、ヴィランの大きな役が舞い込むわけである。

本作は、ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞・男優賞・外国語映画賞、またゴールデングローブ賞&インディペンデントスピリット賞&アカデミー賞外国語映画賞に輝いている。また2005年スペインのゴヤ賞においては、作品・監督・脚本・主演男優・主演女優賞にも輝いている。

物語を細かく書くとこうなる。ノルウェー船の乗組員として、世界中を旅して回ったラモン・サンペドロ(ハビエル・バルデム)。そんな彼は25歳の夏、海水浴中に岩場から海へのダイブに失敗して頭を強打し、首から下が不随の身となってしまう。それ以来、実家のベッドで寝たきりの生活になる。

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農場で懸命に働く兄のホセ(セルソ・ブガーリョ)、母親のような愛情でラモンに接するホセの妻マヌエラ(マベル・リベラ)など、家族は献身的にラモンの世話をしている。だが事故から26年目を迎えた時、ラモンは自らの選択で人生に終止符を打ちたいという希望を出した。最初にラモンが接触したのは、尊厳死を法的に支援する団体のジュネ(クララ・セグラ)という女性。

ラモンの決断を重く受け止めた彼女は、彼の死を合法化するために女性弁護士フリア(ベレン・ルエダ)の援助を仰ぐ。実はフリアは2年前に不治の病を宣告されており、ラモンの人柄と明晰さに感銘を受ける。またもうひとり、テレビのドキュメンタリーを観てラモンに会いにやってきた子持ちの女性、ロサ(ロラ・ドゥエニャス)も、最初はラモンと揉めたが、やがて彼の元をたびたび訪れるようになった。そうして尊厳死を求める闘いの準備を進めるなか、フリアが発作で倒れてしまう。

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やがてフリアが回復し、ラモンの家に戻ってきた時、深い絆を感じた2人はキスを交わし、フリアは自分が植物状態になる前に一緒に命を絶とうという提案をする。約束の日はラモンの著作の初版が出版される日と決めていたが、フリアは夫の説得によって死の決意を翻してしまった。そしてラモンは、結局ロサの助けを借りて、海の見える彼女の部屋で尊厳死を選ぶ。一方フリアは、痴呆症の進行によって、ラモンの記憶を失くしてしまうのだった。

最後にオペラのレコードを聴くと、ラモンが窓辺から海辺へと飛び立つ幻想的なシーンがものすごく印象に残る。

曲は、1926年にイタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニが作曲したオペラ『トゥーランドット』(原題Turandot)から『誰も寝てはならぬ』(原題Nussen dorma)。

テノールのためのアリアで、サッカーのワールドカップ毎に開催された「三大テノール」で著名なルチアーノ・パヴァロッティ(1935-2007)の歌唱が有名だ。本作では、若いスペインのテノール歌手、ホセ・マヌエル・サパタの歌が使われている。この曲は、2006年イタリアのトリノで行われた冬季オリンピックでの、荒川静香選手の女子フィギュアスケート金メダルソングでもある。