真のクリュッグ・ラヴァーは『コレクション』を嗜んでこそ

シャンパーニュとは時の神秘に育まれた飲み物。長い熟成期間が醸し出す無限のフレーバーに、ひとびとは心を奪われる。

クリュッグのヴィンテージが通常10年以上の熟成を要し、2002年においてはじつに13年もの年月を経たうえで、世に送り出されたことを前回述べたが、さらに長期間、ランスにあるメゾンの地下セラーで、理想的環境のもと寝かされたヴィンテージが存在する。世界中のクリュッグ・ラヴァーが血眼になって追い求める『クリュッグ コレクション』だ。

クリュッグ家6代目のオリヴィエ・クリュッグによれば、クリュッグ コレクションは、英国の得意先がセラーに眠る古いヴィンテージを求めたのが、そもそもの始まりという。

オリヴィエ・クリュッグ
当初は「コレクション」というネーミングもなく、数も限られており、個人売買の域を出なかったらしい。いつからコレクションの名が与えられ、定期的にリリースされるようになったのかも明確ではない。

現在、コレクションの最新ヴィンテージは1990年。忘れもしない、このヴィンテージが最初にお目見えしたのは2004年のことだった。広尾のフランス大使館公邸でパーティーが開かれ、スピーチに立ったオリヴィエが、歴代のヴィンテージでも最長となる13年の熟成を要したと語ったのだ。奇しくも13年という期間は、現行のヴィンテージである2002年と等しい。

クリュッグ コレクション 1990
あれからさらに13年。じつはヴィンテージ1990年の素晴らしさに打ちのめされた私は、その年のうちにこれを1本入手したものの、いまだ開けることを躊躇っている。したがってその風味は想像するしかないが、過去に幾度か古いヴィンテージやコレクションを味わった経験から推し量れば、モカやトフィ、トリュフやナッツなど、フレーバーはより一層複雑さを増し、余韻の長さも2倍から3倍。それでいながら生き生きとしたフレッシュさをなおも留め、際限のない悦びに満ち溢れていることは間違いない。

コレクションに興味を持ち始めたら、もはやクリュッグ・ラヴァーの殿堂入りは確定だが、あとふたつ、クリュッグのアイテムを知っておいていただく必要があるだろう。170年以上におよぶメゾンの歴史の中では比較的若いふたつの単一区画キュヴェ、『クロ・デュ・メニル』と『クロ・ダンボネ』である。

クロ・デュ・メニルはコート・デ・ブランのグラン・クリュ、メニル・シュール・オジェ村にクリュッグが所有する1.84ヘクタールの単一区画の名前。この畑で収穫されたシャルドネ100パーセントから、気高くして荘厳なる佇まいのブラン・ド・ブランが生み出される。

クロ・デュ・メニル 2002

もう一方のクロ・ダンボネはモンターニュ・ド・ランスのグラン・クリュ、アンボネ村にあるわずか0.68ヘクタールの自社畑。クロ・デュ・メニルとは対照的に、この畑で栽培されているのはピノ・ノワールのみ。威風堂々、豪放磊落なブラン・ド・ノワールである。

クロ・ダンボネ 2000
どちらも単一年のヴィンテージで、生産量は極めて限られている。

そういえば、クロ・デュ・メニルにはこのようなエピソードもある。シャンパーニュ地方では恵まれた年とみなされ、多くのメゾンがヴィンテージを造った99年。クリュッグでもクロ・デュ・メニルを醸造したが、直前になってリリースを中止した。「クロ・デュ・メニルに求められるなにかが欠けている」と語ったシェフ・ド・カーヴのエリック・ルベル。1万本分のラベルやギフトボックスも、ボトルと一緒にお蔵入り。メゾンにとって大きな損失であることに疑いの余地はない。しかし、そのような決断を辞さないのもクリュッグなのだ。

「安易に妥協すれば、メゾンの評判はいとも簡単に失墜すると心得るべし」。

創設者ヨハン・ヨーゼフ・クリュッグの教えは今もなお、メゾンに受け継がれている。

 

【連載記事一覧】
Vol.1<メゾンのもうひとつの柱、クリュッグ ヴィンテージ>
Vol.2<クリュッグ 2003がクリュッグ 2002より先に出荷された理由とは?>

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