石川の変態すし屋でブリ・テイスティング?!

3年前に改装して、素晴らしい檜のカウンターに。鮨を味わうために整えられた最高の環境/Photo:MUNEAKI MAEDA

店主の山口尚亨さんは石川県山中温泉生まれ。東京の寿司屋で9年修業後、地元に戻った。金沢で店を構えるつもりだったが、予算の都合により隣町の野々市へ。当初、魚は近江町市場で仕入れる予定でいたが、意にかなう魚は金沢の老舗有名店か、築地に行ってしまい、新参者には回ってこないことがわかった。そこで山口さんは毎朝、能登半島の漁港を目指して車を走らせることを始めた。市場に揚がる前に魚を見て、上物を先に抑えてしまおうという魂胆だった。

ところがここでも相手にされない。それでも往復200キロ、毎日通って、ようやく半年ぐらいたって、漁師や仲買いの人たちから口をきいてもらえるようになった。とにかくその日揚がった最高のものをどんな高値でも買う。能登半島のどこに何が揚がったかを把握して同時に築地からも必要なものを仕入れる。そんな冒険的試みがあるから『めくみ』にはその日、最高の日本の海の恵みが揃う。もちろん銀座や西麻布の高級寿司屋より、時間も交通費もかかるが、それでも私は『めくみ』の寿司が食べたくなる。生の大きな鳥貝が楽しめる春(最近はめっきり少なくなり、幻になりつつある)と、越前ガニやブリが楽しめる冬に通う、年に2回の贅沢だ。

最近では『めくみ』はすっかり有名店になってしまって昨年11月にもNHKのドキュメンタリー番組で取り上げられた。その紹介の仕方がとてもユニークだった。「ノーナレ」=ノーナレーション。つまり、ナレーションで説明を加えるのではなく、インタビューに答えている人のセリフのみで展開していく。そこで際立ったのが女将さんの由恵さんのキャラ。山口さんはどんな人?という問いかけに「変態!」と言い切った!魚のことになると話が止まらなくなる山口さんはまさしく料理に関しての「変態」なのだが…。番組の後半にブリの漁師たちに“熟成”させたブリを握る場面があった。ブリのプロである漁師たちは、最初は「鮮度のいいのが一番!熟成なんて…」と言っていたが、山口さんが握る5日目を口に含むと目を丸くし、3週間目を頬張って「ムムム…」と声がでない。ブリのプロも味わったことのないブリ。それが地道な研究と技術による「寿司という料理」だ。

熟成させた九州のブリを取り出す山口さん。鮨、魚を語らせたら止まらない!/Photo:MUNEAKI MAEDA

今回は、その「ブリ・テイスティング」を用意してくれていた。能登のブリ5日目、九州のブリ3週間目。どちらも旨味が充実していて独特の酸味が感じられるところが、フレッシュなブリでは出せない奥深い味わい。

3週間熟成させたブリは、マグロの中トロのように旨味があるが、脂がすぐに引くので後に残らない。むしろ酸味ですっきり。いくらでも食べられる!/Photo:MUNEAKI MAEDA

魚の旨味を引き出すのが“鮨”。山口さんは魚を自分で見て、店で〆て、そして江戸前寿司の技術と科学的な裏付けをすることで、一歩一歩自分の寿司を完成させている。そんな執着心はまさに“変態”という勲章を挙げたいくらいだ。いつ行っても楽しいのは、必ず変化があるからだ。次はどうなっているだろう?そのために私も仕事しよっ!と思うのだ。

Photo:MUNEAKI MAEDA