上を向いて、食べよう!?福井の“水ガニ”は3 ツ星の味

様々な呼称があるズワイガニ/Photo:MUNEAKI MAEDA

レストラン熱中派#33

北陸・山陰の冬はカニに始まり、カニに終わる。11月6日前後から3月20日前後までの間にカニ好きなら一度は現地にで活けガニを食べたいと願う。ご存知かと思うが、“松葉ガニ”“越前ガニ”“加能ガニ”などいろいろな呼び名があって紛らわしいが、これらはすべて同じズワイガニのこと。場所によって呼び名が違うのだ。

松葉ガニは島根、鳥取、兵庫、京都などの日本海側。越前は福井、加能は石川。種類は同じでも育った場所や漁の仕方が違うので“うちが一番!”というプライドは当然のこと。といっても、どこがおいしいかの優劣をつけるのは素人では難しい。その日その時の巡り合わせでもあるので、目の前の蟹をありがたく頂くべきだろう。けれど私は、2月1日から3月中旬のこの時期だけは、どうしても福井に行かなくてはと思う理由がある。水ガニが解禁になるからだ。

“水ガニ”とは、脱皮途中の越前ガニ。カニは通常10年かけて14回ほど脱皮して大人のカニになる。水ガニは、いわば未成年。脱皮したてだから、殻がやわらかく、身はあくまで瑞々しい。何とも言えない淡い甘さ。これこそ親ガニにはない魅力だ。しかも、値段が安い!親ガニが1キロ前後で3万ほどの値段がついていれば、水ガニは500〜600グラムで3000円前後。約10分の1という価格。若いカニを獲ってしまっては資源が枯渇する、未熟なカニは本来の味には遠く及ばないというネガティブな意見もある。しかし、福井の人にとって値段は10分の1といえども、親ガニと同じように水ガニを楽しみにしているのは事実だ。水ガニこそ、昔からどこの家庭でも普通に食べ続けてきた庶民の旬の味なのだ(心底、羨ましい!)。

殻が手で割って食べられるほどやわらかい。それができるのは、福井のカニ漁場の優位性にある。福井のカニの漁場は三国沖に集中する。ここで揚がったカニは4時間ほどで港に着き、すぐさま県内に届けられる。もちろん活けのままで。

「カニは活きていなければ意味がありません。水揚げされたカニはその瞬間からどんどん弱っていきます。他県は漁場から港まで戻るのにどうしても一晩かかる。その半日ばかりの時間がカニの鮮度に大きな影響を及ぼすのです」。

「開花亭」は創業明治43年。越前ガニのコースは3万5000円~。水ガニコースは1万5000円~/Photo:MUNEAKI MAEDA
「開花亭sou-an」は、建築家・隈研吾氏設計による新館。こちらでも昼・夜のコースに加え、アラカルト3800円で水ガニを味わえる/Photo:MUNEAKI MAEDA

福井の老舗料亭「開花亭」主人、開発毅氏によれば、「親ガニは生で東京へも送ることができますが、水ガニだけは無理。福井に来て頂かないと」。わざわざ水ガニのために福井に行く。これこそがニッポンの3ツ星のご馳走だ。

さて、その食べ方だが、すべて手で事足りる。茹でたてのアツアツ、湯気の立っている殻を手で割って関節をひっぱる。すると瑞々しい柔肌がスルスルと殻から姿を見せる。その身を取り出す瞬間の盛り上がりは水ガニならでは!地元では“ズボガニ”と言われるのも、その身ばなれの良さから。このコツを覚えるといくらでも楽しみながら食べられるのだから夢中になるのも当然!水もしたたるカニの身をしっかりと受け止めて頬張る瞬間は誰もが旨い、旨いの連呼!フレッシュなカニのエキスをこぼさないよう、上を向きっぱなしで頬張ることになる。(考えようによっては官能的な食べ物にも思えるが、福井の人は食欲が勝るのか、とても健康的に召し上がるところが、また楽しい)。

水ガニの食べ方

ただ、不思議に思ったのは、カニのもうひとつのおいしい部分である味噌はどうなっているのか?「味噌はまだ味がないんで食べないんですよ」。ホントに?市場で売っている時に、すでに甲羅は二つに割られ味噌はついていないとか。しかし、「開花亭sou-an」の畑地料理長がこっそりその味噌を出してくれた。ひと口なめてみると、濃厚さはないけれどさらりとしたカニ味噌”風味”のソースのよう。これ、使い道あると思うな~。

カニ味噌をソースにして身にからめると、より風味豊かに。これを使えば、料理として評価も高まるのでは?/Photo:MUNEAKI MAEDA
「開花亭sou-an」の畑地料理長。福井では「カニ炊き一生」と言われるほど、カニに関して特別な思いを込める。「水ガニは必ず料理長が茹でます。柔らかいからこそ、ゆで時間、火加減が微妙。経験が必要なのです」。福井県民にとって、水ガニはソウルフードなのだ/Photo:MUNEAKI MAEDA

あなたも今すぐ、体験するか?来年の楽しみにとっておくか?どうする?

Photo:MUNEAKI MAEDA