若手技術派ブランドの代表格Scyeのパターン・テクニックにはいつも脱帽してしまう

モード逍遥 #31

今ではほとんど見かけなくなってしまったが、昔は著名なテーラーが長年に渡って研究してきた服作りに関する理論を技術書として1冊にまとめる、というようなことをしていた。それは、後進の育成という目的があったのだと思う。

磯島定二さんという昭和の名人テーラーが執筆した『紳士服裁断の基本』(洋装社 1995年)も、そうした意図で著された技術本の代表的なものであろう。

磯島さんが著書のなかで書かれていることを要約すると「優れた服を作るというひとつの目的に対して、手段はひとつではない。ひとつの問題に対して、導き出される答えは必ずしもひとつとは限らない。人によって考え方や、やり方が異なっても、その異なった方法が、それぞれ好結果をもたらすならば異論はないのである」ということである。

筆者は以前このコラムで、トラウザーズをよりはきやすくするための工夫としてS字状にクセ取りするテーラーのアイロンテクニックを紹介したことがある(モード逍遥 #11)。

ところがこのS字ラインを手間のかかるハンドワークでなく、なんとパターン上で処理した男がいた。その男の名は宮原秀晃さん。サイ(Scye)というブランドのオーナー兼パタンナーで、若手技術派の代表格として知られている。

原宿で開催されるサイの展示会は、筆者がいつも楽しみにしているもののひとつだ。というのも、ブランド名の“Scye”は袖ぐり(鎌)をあらわす古い仕立て屋用語。このことからも判るように、サイは筆者の大好きな本格的なテーラードクロージングをオリジナルの上質な天然素材で提示しているからだ。