この曲『ザ・キャトル・コール』しかない『マイ・プライベート・アイダホ』の風景

オトコ映画論 #42

1991年のガス・ヴァン・サント監督・脚本による長編第2作『マイ・プライベート・アイダホ』(原題My Own Private Idaho)は、リヴァー・フェニックスの全出演作のうち、最高傑作と言える。オレゴン州ポートランドが舞台であり、「ポートランド三部作」のひとつ。

原作は、ウィリアム・シェイクスピアの『ヘンリー四世第1部』『ヘンリー四世第2部』『ヘンリー五世』の3つの戯曲だった。

ストリートキッズのマイク(リヴァー・フェニックス)は、オレゴン州ポートランドの街角に立ち、体を売って男娼の日々を暮らしていた。彼には緊張すると眠ってしまう「ナルコレプシー」という奇病がある。そんなマイクの親友は、ポートランド市長の息子でありながら、放浪癖がある男娼をして生きているスコット(キアヌ・リーヴス)。

ある日マイクは自分を捨てた母を捜す決意をし、スコットとともに兄リチャードが暮らす故郷アイダホへと向かう。まるで『母を訪ねて三千里』だ。手掛かりを追ってスネークリバー、そしてイタリアまで旅する2人。しかし2人は旅先のイタリアで、お互いの進む道の決定的な違いを知らされる……。

ホモセクシャル、近親相姦という要素をバックグラウンドにしたロードムービーで、“家庭”とアイデンティティを求めて旅する姿が主題となる。監督のガス・ヴァン・サントは、眠りに落ちたマイクの夢に常に母親のいる優しい家の情景を登場させ、この“家への回帰”というテーマをファンタジックにかつ詩的に描いている。素晴らしい。

本作で冒頭のオレゴンの原風景のなか流れるのが、1940年代に一世を風靡した「テネシーのプレーボーイ」(テネシー州の田舎少年、の意味)という異名をとったカントリー歌手、エディ・アーノルド(1918.5.15-2008.5.8)が歌った『ザ・キャトル・コール』(原題 The Cattle Call)だ。

アーノルドは、ギターとバンジョーを演奏するシンガーソングライターで、この曲は女性のリアン・ライムスと共作した1944年の大ヒット曲。「牛呼びの声」という意味で、裏声を使ったカントリーヨーデル(ウエスタンヨーデル)の代表曲だ。ともかくコレ以外の曲が信じられないほど、オレゴンの果てしなく続くハイウェイの風景にピッタンコだった。

ここで「ホーボー」という言葉について触れてみたい。ロバート・アルドリッチ監督、リー・マーヴィン&アーネスト・ボーグナイン主演の『北国の帝王』(1973)に詳しいが、「ホーボー」(原題Hobo)とは20世紀初頭の世界的な大不況のなか、働きながら方々を渡り歩いた渡り鳥労働者のことで、ホームレスのサブカルチャーの一員のこと。

鉄道に無賃乗車を決め込み、時には追い立てられ、アメリカの自由なフロンティアスピリットを自らで体現しながら、文学や音楽の世界で多くの人が彼らに憧れと共感を示した。