春夏のデコントラクテなスーツに似合う知られざるバッグの名品をご紹介

モード逍遥 #27

春夏のスーツスタイルのキーワードは、デコントラクテ(仏語で非構築的という意味)だと、筆者は考えている。

1970年代後半に草思社から出された名著『チープシック』に並ぶ傑作本として、チャールズ・ヒックス著・穂積和夫訳『男の着こなし』(草思社)というものがある。

これによると、

“デコントラクテの服は仕立ても輪郭もルーズに出来ている。この服装の感覚的なねらいは柔軟性であり、従来、注文仕立ての服装を構成するのに使われてきた目に見えない内部構造は、まったく不在である。そしてハードな仕立てとは対照的にソフトである。裏張りとパッドはしばしば省略され、そのために上衣にもシャツのようなたるみが出る”

とのこと。スーツの新しい潮流について解説している。

また1970年代中盤から、カルダン・リラックスのデザイナーとしてデコントラクテに逸速く着目していたアラン・フラッサーも、この本の中で、「自分の身体つきに自信があり、身体に合わせるのではなく単にまとうだけの服を着る自信があれば、もっとソフトなものを身につけることによってずっと自由に身体を動かすことができるようになる。(中略)そうすると、スーツをボール紙のように身体にはりつかせたまま動くというのではなく、好きなように歩いたり動きまわったりできる」と説いている。

では参考に、2017年春夏版のデコントラクテをユナイテッドアローズの展示会から拾っておこう。

写真左は、カルーゾのモヘアを混紡した軽量スーツにシルク混のニットをコーディネートしている。このスーツは芯入りだが、カルーゾではこの他にも、キャメルを軽くソフトに特殊加工した服地でデコントラクテな替え上着を登場させていた。

左:カルーゾのモヘアを混紡した軽量スーツ
右:カモシタ・ユナイテッドアローズのチェックスーツ
Photo:Shuhei Toyama

写真右は、『カモシタ ユナイテッドアローズ』のチェックスーツ。ピークドラペルにチェンジポケット付きで、一見堅いイメージだが、実際は軽く柔らかなデコントラクテ仕様。インナーには、バンドカラーシャツやタイ・シルク調のオープンカラーシャツを組み合わせる提案をしていた。

現代のデコントラクテ・スーツは、カジュアルダウンし過ぎたクール・ビズよりもずっとスマートに見えるから、春夏のビジネス・シーンに何らかのエボリューションを与えるのではないかと、筆者は密かに期待しているのである。

さらに言えば、こうしたデコントラクテなスーツには、従来の丈夫なナイロン製のビジネスバッグやクラシックで重厚なレザーバッグは似つかわしくない。

そこで、その候補バッグとして思い浮かべるのは、近年登場し、お洒落な方々の間で人気を呼んでいるビジネス・トートというタイプのバッグであろう。

筆者もじつは愛用者のひとりであるのだが、この“ビジネス・トート”なるもの、欧米のお堅い職場では通用しないことをご存知だろうか?

言い換えると、俳優ピーター・オトゥールや劇作家のサミュエル・ベケットはトートバッグを日常の仕事に使うが、フランク・シナトラやボギーは決して持たない。つまりストレートな男は、仕事でトートバッグを使うべきではない、という暗黙の約束事があるようなのだ。

そこで注目したのが1923年にミラノで創業した知られざる名バッグ・ブランドの『セラピアン(Serapian)』である。イタリアの映画産業が隆盛を極めた1950から60年代には、あのフランク・シナトラもローマのチネッタ見物の後に、ここを訪れてバッグを購入したことがあるという。