KRUGは「アッサンブラージュ」である。「アッサンブラージュ」は直感である!?

クリュッグがクリュッグたる所以は、その職人技ともいえるアッサンブラージュにある。伝統的な小樽を用いた区画別の発酵、7年もの長期熟成、それらを生かすのも殺すのも、ひとえにアッサンブラージュにかかっている。

クリュッグでは毎年、ワインジャーナリストをランスのメゾンに招き、アッサンブラージュを体験させてくれるのだが、私もこのイベントに参加させていただいて6年になる。さすがに6年も続けるとアッサンブラージュのコツのようなものが掴めるもので、今年のイベントでわれわれのチームがこしらえたワインは、他の参加者がグーの音も出ないほどの出来栄え。シェフ・ド・カーヴのエリック・ルベルからもお褒めの言葉をいただいた。

このアクティビティでは、前年の秋に収穫された最新のワインと、過去数ヴィンテージのリザーヴワインが合計20種類程度用意され、それらを3~4人のグループに分かれてアッサンブラージュする。実際にクリュッグの醸造チームが扱うのは400ものワイン。この20倍かと思うと、その緻密な作業に驚愕する。

シャンパーニュ地方の天候ほど気まぐれなものはなく、ボルドーやブルゴーニュにとって偉大な年が、必ずしもシャンパーニュにとって素晴らしいとは限らない。ブドウがよく熟した反面、酸に乏しい年もあれば、一年を通して気温が低く推移し、熟度が足りない代わりに酸が際立って高い年もある。またコート・デ・ブランのシャルドネは良かったのに、モンターニュ・ド・ランスのピノ・ノワールは今ひとつという年やその反対の年ももちろんもあったりする。したがってアッサンブラージュはいつも同じレシピというわけにはいかず、毎年ゼロからリセット。6年通う私でさえ、新たな発見が必ずある。

興味深いことに、多くのメゾンがフラッグシップと呼ばれるシャンパーニュを説明する際、「このキュヴェにはグラン・クリュのブドウしか使ってません」とか「長期熟成に不向きなムニエは使いません」としたり顔で語るのに対し、クリュッグではたとえヴィンテージであっても、グラン・クリュにはこだわらないし、ムニエもふつうに使う。つまり、クリュッグはブドウを優劣ではなく、“個性”でとらえるので、価値のあるクリュや品種であれば、固定の概念にとらわれず、積極的に取り入れるのだ。

実際、今年のイベントでもサシーという聞き慣れないクリュのピノ・ノワールや、シャンパーニュ地方最南端に位置するリセイのピノ・ノワールが用意されていた。サント・ジェムのムニエは毎年のように供され、これがアッサンブラージュの鍵を握った年もある。

ところで、自分の恥を晒すようだが、シェフ・ド・カーヴから褒められるようなアッサンブラージュが出来るようになったのも、最初のイベントで大失敗をしでかしたからだ。

忘れもしない、その年の相棒はイタリアのジャーナリストだった。クリュッグのグランド・キュヴェといえば、力強く、複雑なシャンパーニュというイメージが頭の中にあるものだから、「パワフルさでいえばブージィのピノ・ノワールだよね」、「古いメニルのシャルドネがすごくよかった」などと意見を交わし、まさにクリュッグのグランド・キュヴェさながらのワイン、ただし泡のないバージョンをアッサンブラージュしたのである。

我々のワインを試飲した他のグループや、クリュッグの醸造チームから酷評をいただいたのも無理はない。クリュッグの女性醸造家、ジュリー・カヴィルからは「このあと7年も熟成させるのよ。それに耐えられるかどうかよく考えてみて」とダメ出しをくらってしまった。

そうなのである。グランド・キュヴェはアッサンブラージュしたワインを瓶詰めした後、瓶内二次発酵と熟成が行われる。澱とともに寝かされる期間は7年にも及ぶ。この間に少しずつワインは複雑味を増し、力強さを備えていく。だから、瓶詰め前からすでに熟成感に富み、重みのあるワインだと、7年後には疲れ果てたシャンパーニュとなってしまうのだ。

瓶詰め前のワインは複雑なレイヤーを備えながらも、新鮮味を備えていることが大切なのだと、この時に気付かされた。

また、リザーヴワインは複雑なレイヤーを構築する上で必要不可欠だが、古いヴィンテージのワインはわずか1パーセントの違いでも劇的な変化をもたらすので、細心の注意をもって加えるべきだということも学んだ。

クリュッグの醸造チームは毎年すべてのベースワインを延べ5,000回にも及ぶテイスティングをし、それぞれがどのような役割を担うかを綿密に計算した上で、アッサンブラージュに臨む。

それにも関わらず、以前、エリックに、「アッサンブラージュでもっとも重要なことは?」と尋ねたら、「直感」という答えが返ってきた。

あれは3年前のイベントだったろうか。香港の女性ジャーナリストとチームを組んだ時のことだ。

最初にアッサンブラージュしたワインは新鮮味はあるのだが、今ひとつ深みに欠けた。そこであるクリュのリザーヴワインをほんの少し多めに加えたところ、「これだ!」とみんなで顔を見合わせたことがある。どんなに理詰めで計算してはいても、最後の拠りどころは直感。そこにクリュッグのアッサンブラージュにおける職人気質が見てとれる。

 

【連載記事一覧】

Vol.1 <偉大なシャンパーニュを造るには、偉大なクリュ(畑)が不可欠である>

Vol.3 <「クリュッグ グランド・キュヴェ」のすべてを暴く!?>

他にはない味わいを夢見た初代の考えを貫き、1843年の創業以来6世代にわたり伝統の製法を忠実に守り続けるクリュッグ家。
芸術にも喩えられるアッサンブラージュと6年以上の長く静かな熟成を経て、独特の深く複雑な味わいが生まれます。

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