帽子を預けるクロークが少ない国でお勧めのメンズハットとは !?

モード逍遥 #23

2000年を過ぎた頃から原宿周辺に乱立していたスニーカーショップが減り始めた。その代わりに台頭したのが帽子屋である。

帽子屋といっても、銀座の老舗にあるような重厚なドレスハットは置いていない。外観はトップハット、ボウラー、ホンブルグといった本格的ハードハットに見えるのだが、持ってみると軽く平坦な感じ。どれも手軽に糊で固めたフェルトで作られているからだ。

これを若い方はカジュアル・クロージングに合わせてシックに着こなしている。そう、今は帽子がブームなのである。

考現学を発案した今和次郎さんは、関東大震災後の銀座通りで、そこを歩く男女の風俗を綿密に調査している。その記録によると、ハイカラ紳士はスリーピーススーツに中折れ帽(ソフト)、職人は和装にハンチング、大学生は詰め襟に角帽。この当時の男性は全員が帽子をかぶっていたと記されている。

しかし第二次大戦後、急激に帽子の需要が減る。その理由は、

A. メンズファッションが英国調からカジュアルな米国調へ移行した
B. 都市空間に空調設備が整い防寒・防風・防塵用の帽子が不必要になった
C. 満員電車で通勤するときに帽子をかぶるとはた迷惑になる
D. 当時のファッションアイコンだったケネディ大統領が帽子嫌いだった

──などが挙げられよう。

が、“流行は繰り返す”という格言があるように、一度廃れたはずの帽子をどこぞの若い方が試してみたら、意外や「コレって、快適じゃん!」となったわけであろう。

だが、使い捨ての帽子で入門の扉を開いても、そこに留まっていては真のブームとはいえまい。そこで筆者は、この秋冬に向けて『オートモード平田』で本物の帽子を予約注文したのである。折よく2017SSコレクションを開催なさるというので、その最新作を見物ついでに注文しておいた帽子も受け取る段取りにして戴いた。

展示会はいつもながら素晴らしいものだった。とくに目についたのは、ブンタル(フィリピンのココヤシの繊維を手作業で仕上げた希少な素材)を使用した女性用の帽子。そしてクラウンが浅く見えるのに、実際にかぶってみるとそれをまったく感じさせない工夫がなされたメンズハットなど。

『オートモード平田』は、パリのジャン・バルテの下で修行した帽子作りの達人平田暁夫さんのアトリエだ。平田さんは先年他界されたが、娘さんの石田欧子・馨さんご夫妻とスタッフが立派に跡を継がれ、2階がアトリエになった西麻布の『ブティックサロン・ココ』で、まったく昔と同じ方法で帽子作りを続けている。

そのパリ直伝の手法(オートモード)は、スパットリー(イモギの幹を薄くスライスして平織りにした材料)を水で湿らせて造形し、それを特殊な方法で固めて帽子の型を作るという特別なものだ。

従来のクラシックな紳士帽は、専門の職人が木を削り出して帽子の型を作っていた。つまり、帽子の作り手とその意志を受けて木型を作る職人の間には阿吽(あうん)の呼吸が必要となっていたわけである。

しかし。水で湿らせてバイアス方向にも自在に動く木のシート(スパットリー)なら、帽子の作り手のひらめきが瞬時に型作りに反映され、ブンタル製の女性帽のような自由度にあふれたデザインが創造できるのだと思う。