スーツのクォリティは、お直し屋が一番よく知っている!?

それだけではない。お直し屋さんは、修理したり寸法直しをした服を元通りに仕上げなければならないから、必然的に、どこにどんな糸が使われているかとか、最新の芯地の傾向などを、下手なアパレル企業の企画部よりも深く知っていることが多いのである。

世界中にある様々な高級服を修理して得た服作りのノウハウを基に、普段はお直ししかやらないけれど腕と目は滅法いいという職人さんに思うさま服作りをさせたら、どんなに素敵なスーツが出来るだろうと、筆者は約20年ほど前に夢想したことがあった。

そんなときに偶然に出会ったのが、当時東京のお洒落な紳士洋品店のお直しを引き受けていた方であった。そこで無理にお願いして好きな服地を持ち込み、仕立てていただいたスーツは、高級デザイナーズ・ブランドのインポートスーツのような外観を保ちながらも、身体にすごくフィットしていて、女性からの評価がとくに高かったのである。

そんな経験をしてきているものだから、この秋、洋服のお直し工房『SARTO原宿店』がリニューアルを機に『SARTO神宮前』と名前を変え、さらにメイド トウ メジャーの新ブランド『Mr.FENICE(ミスター・フェニーチェ)』を立ち上げると聞いて、いささか興味をもった次第である。

Photo:Shuhei Toyama

『SARTO』は、長らくセレクトショップのお直し工房として実力を養い、数年前に一般の客も利用できる路面店を立ち上げ、その後にオーダーメイドにも力を入れてきた。

『Mr.FENICE』は、このオーダー部門をさらに進化させたもので、クリエーティブ・ディレクターに鎌田一生氏、モデリストにイタリアのテーラーで修業してきた渡辺旭洋氏を擁して、イタリアのクラシコにフレンチテーストを加味した、ダンディズムな外観を保つハウススタイルを提案している。

その少し癖の強いスタイルは好みがわかれるところだろうが、最新の付属を使ったスーツの出来は、マシンメイドとは思えないほどしなやかで見事な仕上がりになっている。

ファッション業界では長い間、デザイナーやカリスマ・バイヤーが常に優位な立場を独占し、物作りの現場に従事する仕立て職人やお直し屋さんは軽んじられる傾向が続いていた気がする。

そうした風潮のなかで、『SARTO』がこれまでに展開してきた試みは、ファッションを手で物を作る人のもとへ再び取り戻すための新潮流として多いに注目したところである。

メンズファッション界が停滞している今、それを蘇らせる可能性のひとつとして、創造性を失わずに物作りに励む職人たちの活躍の場を広げることは大きい。

ファッション界にも下克上が起こることを筆者は密かに期待しているのである。

 

Photo:Shuhei Toyama